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KIKIKIKIKIKI「サカリバ」@京都芸術センター

さて、「サカリバ」の話です。KIKIKIKIKIKIは4人の女性からなるカンパニーなのですが、この作品は4人全員がベッドの上に腰掛けているところから始まります。

暗闇の中、白い衣装を着た4人は背中合わせで、放射状に脚を伸ばして座っています。その様子は闇の中に、まるで白い花が咲いたかのようです。花弁である4人は、やがて虚空に口づけを繰り返す動作をはじめ、ゆっくり「開花」して、こちらをとろんと見上げるのです。花とは植物における性器であり、ベッドは性欲の巣となる場所です。そこに座るおんなたちが、とろんと開いてじゅぱじゅぱと音を立てる。既に嫌悪感を漂わせるほどに、濃厚な性的オブセッションです。

舞台の様子が一変するのはここからです。はじめこそ団体行動をとっていた彼女たちですが、舞台が明転するやいなや、激しく個別に分かれて踊り狂い、ベッドを争って占拠しようとします。ベッドに座る者があれば、たちまち相手を引きずり下ろし、ときにタッグを組んで協調し、かと思えばすぐに裏切って抜け駆けを行い、キスを求めて絶叫し、ベッドの上で激しいピストン運動を演じて見せます。ただしベッドの上での腰の上下はあまりに激しすぎ、それが性的な動作なのか、単なる自己破壊の自虐的動作なのかもわからなくなるほどです。そして最後は裸になってプロレスを演じ、フォールをとって勝ち名乗りを上げる。あまりにもあからさまな、この女性の「性(さが)」の強烈な描写に、賛否両論が出るのも頷ける話です。

ラストではおんなたちが争って奪い合ったベッドがひっくり返されるのですが、そこにはギッシリ花が詰まっています。そしておんなたちはこの花を食い荒らし、舞台上に撒き散らしながら踊り続けるのです。花の詰まったベッドは通常、死者が横たわるための寝床、すなわち棺桶を意味します。そして花と唾液、数足の原色のハイヒールで、舞台上を滅茶苦茶に汚したあと、媚態を振りまきながら彼女たちは去っていきます。カラフルな花とハイヒールが無惨に撒き散らされた舞台は、まるで女の欲望の最終処分場、性欲と消費欲のゴミ捨て場のように見えるのです。

かように濃密な意味と象徴性のまとわりつくこの作品ですが、こんなふうに物語仕立てで記述できるのは、私がメモをとって見ていたからです。普通は合理的な筋立てをそこに読み込むことは、まず無理な相談でしょう。その展開は異様なまでに早く、ダンサーは数人ごとに別れてバラバラな動作を演じますし、動作の一つひとつもあまりにも激しいため、意味と非・意味の間を行ったり来たりするからです。しかもダンサーは全員、体型も身長も女性としてのタイプも見事なまでに違う。なにかわけのわからない「おんなたちの身体」を強迫的に見せられたという印象が、そこにいつまでも残ります。明快なメッセージはあるのに抽象的で、はっきりしたストーリーがない。それは夢を見ているかのようで、まさに「行」のダンス、行書体のダンスであると言えるでしょう。

「サカリバ」は「盛り場」であると同時におんなたちが「さかる」場であり、「女盛り」の発情期にある、おんなたちが集う場所です。ただしそれはカタカナに変換され、高度な抽象性の世界に置き換えられた「サカリバ」です。この強烈なメッセージを持つ作品は、実はわずか30分の尺しかないのに、そこに詰め込まれたイメージと身振りは膨大なものとなっています。この舞台を通じて、男性は女性へのイメージの変更を迫られ、女性はもっとも見たくなかった真実を発見して、嫌悪と安堵の感情に駆られるでしょう。

振付家のきたまりは大学在学中から既に高い評価を受け、卒業後間もなくトヨタ・コレオグラフィー・アワードにノミネートされた鬼才で、遠からずトヨタを制するだろうと私は見ていますし、もはや「その先」を私は期待しています。ダンスに全く興味のない方も、是非一度彼女たちの舞台をご覧になることお勧めします。

KIKIKIKIKIKI「サカリバ」
構成・演出・出演: きたまり
出演: 川崎香織 平田里奈 野渕杏子 きたまり
音楽: ,G
美術: 黒田政秀
衣裳: 園部典子
振付助手: 小島美香
京都芸術センター
2007年3月24日(土)18:00


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